財界九州4月号の変わる!働き方に『障害者の能力に着目 積極的雇用での戦略化』というタイトルで掲載いただきました。
財界九州2017年4月号(NO.1111)財界九州掲載許可済み
変わる!働き方 多様性
障害者の能力に着目 積極的雇用での戦略化-カムラック
ダイバーシティ・マネジメントは、企業などが、性別や人種、年齢や学歴などにとらわれず、多様な人材を積極的に受け入れ、活用する事を指す。生産年齢に属する男性という従来的な働き手ばかりではなく、女性、外国人、またはシルバー世代にも能力を発揮してもらうのがその主眼だが、多様性の一つに挙げられるであろう"障害者"については、どう捉えるべきか。これについては、社会福祉的な視点もあり、議論の余地が残されている。
しかし現実的には、「従業員50人以上の民間企業の場合、障害者を1人以上雇用する」ことを定めた障害者雇用制度の法定雇用率2%を守るために雇用し、比較的負担の少ない業務に従事してもらうーといったケースがほとんどだろう。この場合、法令遵守という立場から、企業の体面を保つことを優先順位に付いてしまいがちだ。
ところが、そんなジレンマと決別するかのように、”障害者の戦力化”を掲げる企業がある。ウェブサイトで使うアイコンやロゴなどのデザイン、アプリ開発などを請け負うカムラック(賀村研社長)だ。2013年に設立し、福岡市に二つの事業所があるが、そこで働く約60人の社員のほとんどが障害者だ。健常者によるソフトウェア開発や、企業の障害者雇用を支援する関連会社もあり、客の要望や受注内容に応じて各社が役割分担して仕事をこなすビジネスモデルを構築している。
社長の賀村氏はその著書「日本一元気な職場から学ぶ積極的障害者雇用のススメ」(masterpeace good・book編集部刊)の冒頭部で、こんな事例を挙げ”障害者の戦力化”を訴えている。
「ある障がい者を持った女性が、企業に法定雇用の枠で採用されました。彼女は、一般企業で働くことができると、とても張り切って入社します。
しかし、来る日も来る日も命じられる仕事は単純作業ばかり。必然的に時間を持て余し
てしまいます。かたや周囲の社員たちは、バタバタと忙しそうに働いている……。
彼女は、きちんとしたITスキルもあったので、『お手伝いしましょうか?』と、担当者に声をかけました。それは、彼女にとって大きな勇気だったと思います。
そして、一般企業で働き続けるための成長のチャンスでもありました。
しかし、担当者は『いいよ、いいよ、無理しないで』と返事をします。
その日から彼女の仕事は、黙って座っていることになりました。(原文のまま)」
彼女は結局この会社を辞め、もとの障害者就労支援施設に戻ったという。勤務した会社の社員たちは皆優しく、彼女を気遣ってくれたそうだが、その勤務実態は”窓際族”でしかなかったのである。
カムラックのコンセプトは、これとは真逆のものだ。賀村氏はかつて勤めていた東京のITベンチャー企業で営業を担当していたが、メリットより縁故を優先しがちな九州市場で苦戦を強いられたという。そのとき、突破口を開くには何らかの付加価値が必要と考え、ビジネスパートナーと共に、障害者とのコラボレーションに着目し、知見を深めた。
その中で、そもそも障害者に就労意欲があり、IT分野などで、健常者と比べても遜色のない技術を取得でき、また経験を積ませれば、戦力としても十分力を発揮できると確信。“積極的に障害者を雇用する会社”としてカムラックを設立した。
ただし、障害者が健常者に負けないスキルを身に付けているというだけでは、社会性は高いとしても、客に決定的なメリットを提供することはできない。これに対して同社は、障害者の就労を支援する「障害者総合支援法」を積極的に活用し、事業体としての競争力を高めることに活路を見いだしている。
同法が定める障害者の就労支援施設には「就労移行支援事業」「就労継続支援A型事業」「就労継続支援B型事業」の三つがあるが、うち雇用を前提にした”A型事業所”の場合、事務所の運営経費として、障害者1人当たり1日6000円の給付金が支給される。20人雇用して月の稼働日数が22日だとすると、毎月250万円以上が支給される計算だ。
カムラックは、“A型”だが、これによって得られる“給付金”がコスト面の優位性をもたらしている。その分、健常者が働く一般企業よりも、コストパフォーマンスの高い商品やサービスを提供できるというわけだ。
昨年末から今年初め、福岡市などで障害者の就労支援施設であるかのように偽装し給付金を不正受給している事業所が複数あることが発覚し問題化した。これは制度の悪用に他ならず論外だが、その一方で、制度の健全な活用により、経済性と社会性の両立が可能であることを示した同社のビジネスモデルは、障害者のスキルアップを事業の成果に直結させる職場を創出する方法として興味深い。賀村氏は「障害者雇用を100人まで増やし、このビジネスモデルを他の企業にも広げるための仕組みを確立していきたい」と今後の発展を描いている。
上記、移行支援バナーは、移行支援事業所の利用者が制作しました。